大判例

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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)1677号 判決

原告(反訴被告)

大銑産業株式会社

右代表者

岡田豊

原告(反訴被告)

関西銑鉄株式会社

右代表者

奥山茂郎

右両名訴訟代理人

豊蔵利忠

被告(反訴原告)

破産者日幸金属株式会社

破産管財人

庄司好輝

右訴訟代理人

小村建夫

主文

一  破産者日幸金属株式会社に対する大阪地方裁判所昭和五七年(フ)第八九号破産事件につき、原告(反訴被告)大銑産業株式会社の破産会社に対する別紙約束手形目録一記載の約束手形金の破産債権が金一八五五万五六一〇円であり、また、原告(反訴被告)関西銑鉄株式会社の破産会社に対する別紙約束手形目録二記載の約束手形金の破産債権が金四五八万八〇三〇円であることをそれぞれ確定する。

二  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じ被告(反訴原告)の負担とする。

事実《省略》

理由

一まず原告の本訴請求について判断する。〈省略〉

二次に、被告の反訴請求について判断する。

1  〈省略〉

2  〈中略〉

(二)(1) 原告大銑産業は、約二〇年間にわたり、また、同原告の関連会社である原告関西銑鉄は、破産会社の設立当初より、いずれも右破産会社との間で鋳物原材料の取引を行つていたところ、昭和五七年三月一、二日頃、当時原告大銑産業の北営業部部長であつた訴外藤居隆太郎は、右原告の取引先である訴外大阪珪酸曹達から破産会社と取引のある訴外大下鋳造が手形の不渡りを出したか、あるいは倒産したとの連絡を受け、これを調査したところ、右破産会社が右訴外大下の不渡を出したこと等を理由に閉鎖されていることを知り、またその頃、原告関西銑鉄の営業販売担当の訴外速水清見も、破産会社の代表取締役の行方が分らず、破産会社が閉鎖されていることを知つた。そこで、同月四日、原告大銑産業の北営業部長であつた前記藤居、同原告の社員芳賀龍太郎、及び同関西銑鉄の社員速水清見は、右同日、破産会社に出社せず自宅で待機していた破産会社の社員の訴外神谷光昭を呼び出し、同人とその自宅近くの喫茶店で面談したが、当時破産会社に対し、原告大銑産業は、別紙物件目録一に記載の商品やその他の商品を、また、同関西銑鉄は同目録二に記載の商品やその他の商品をそれぞれ売却して納入し、その代金の支払のため、それぞれ本件一、二の各約束手形を受取つていたが、右手形が決済される見込はなく、現実には右商品代金の支払を受けていなかつたので、右藤居らは、神谷光昭に対し、原告らが破産会社に売渡した商品で、現に破産会社の倉庫に保管中の商品に対する売買契約を解約して右商品を原告らに返して欲しいと申入れた。これに対し、右神谷光昭は、当初、原告ら方の担当者の右申し入れを拒んでいたが、当時は、平常と異なり、破産会社の代表取締役神谷博の行方もつかめず、破産会社の経営状態も心配される状態であつたことから、結局右藤居らの申し入れを承諾して、原告らに別紙物件目録一、二記載の本件商品を返還することとした。

(2) その後右藤居らと神谷光昭は、破産会社の倉庫に行き、神谷光昭が倉庫の鍵を開け、原告大銑産業の手配したトラック三台と破産会社のトラック一台に倉庫内の商品を積み込み、これを原告大銑産業の南港倉庫に運搬して右商品を原告らに引渡した。

(3) 訴外神谷光昭は、翌三月五日、原告大銑産業の南港倉庫において、前日の記憶に基づいて作成しておいた搬出商品のメモと現実に倉庫にある商品とを照合のうえ、これら商品名と数量とを記載した引渡し証と題する書面(甲第七号証の一)、及び物品受領書(甲第一三号証)の受領捺印欄にそれぞれ署名した。

(4) 次に、破産会社は、資本金五〇万円の小規模の株式会社であつて、会社業務に従事する者は、昭和五六年九月以降は、代表取締役である神谷博の外、社員の神谷光昭、運転手の佐土原武信、及び帳面を整理する程度の仕事をしていた神谷百合のみであつたところ、訴外神谷光昭は、破産会社の代表取締役である神谷博と親戚(従兄弟)の関係にあり、破産会社が倒産するまで約二〇年間も破産会社に勤めていたものであつて、破産会社の事務所及び倉庫の鍵を代表取締役の神谷博とは別に所持管理していた外、破産会社の一般事務や商品の仕入等も担当していた。

そして、原告らの担当者が破産会社にその商品を販売するに際しては、破産会社の代表者が不在のときは、前記訴外神谷光昭と商品の値段や納期等の交渉をしてこれを販売していたのであつて、特別高価な商品の仕入の場合は別としても、右神谷光昭には、少なくとも、別紙物件目録一、二に記載の程度の商品については、破産会社を代理して、右商品の仕入れをする代理権限及び右仕入れに関する売買契約を解約する代理権限があつた。

以上の事実が認められ、〈反証排斥略〉、他に右認定を覆すに足りる証拠はない

そうとすれば、原告らの担当者である藤居、速水は、昭和五七年三月四日、破産会社の代理人である訴外神谷光昭を通じて破産会社との間に、別紙物件目録一、二記載の本件商品の売買契約を合意解約した上、右神谷光昭の承知の下に、右商品を持帰つてその後これを処分したものであり、かつ、右神谷光昭は、破産会社を代理して右商品に対する売買契約を合意解約する代理権限があつたものというべきであるから、右合意解約は有効であり、かつ、これによつて、原告らは本件商品の所有権を取得したものというべきである。従つて、原告らが右商品を持ち帰つて処分したことに何等の違法もないというべきである。〈中略〉

(三)  のみならず、原告らが、本件商品につき、それぞれ原告ら主張の特別の動産先取特権を有していたことは当事者間に争いがないところ、破産財団に属する財産の上に存する特別の先取特権を有する者は、その目的である財産の上に別除権を有しており(破産法九二条)、また、別除権は、破産手続によらずしてこれを行うことができるから(破産法九五条)、破産財団に属する目的物に先取特権を有するものは、民事執行法の手続により目的物を換価して優先弁済を受けることができる。そして、先取特権の付着している目的物については、破産管財人において、適当と認めれば、被担保債権を弁済して先取特権(別除権)の目的物を受戻すことができるし(破産法一九七条一四号)、また、一定の手続により、目的物を換価することができ、先取特権者は、これを拒むことはできない(破産法二〇三条一項)が、右いずれの場合でも、破産管財人は、右先取特権に優先する債権がない限り、結局において、先取特権の被担保債権額ないし目的物の換価額が先取特権の被担保債権額を満たないときは、その換価額の全額を先取特権者に支払わなければならないから、先取特権者が、先取特権の目的物を破産会社(破産財団)から持帰つてこれを任意処分した場合においても、特段の立証のない限り、将来破産管財人において右目的物を換価した場合の価額が、先取特権の被担保債権額を超え、かつ、先取特権者の処分した価額よりも高い場合に限り、その差額につき、破産会社に損害が生じたものというべく、そうでない限り、破産会社に損害はないというべきである。

これを本件についてみるに、〈証拠〉によれば、原告大銑産業が破産会社に売渡した別紙物件目録一に記載の商品代金は合計二〇四万〇八一〇円であり、また、原告関西銑鉄が破産会社に売渡した別紙物件目録二に記載の商品代金は合計七九万六〇〇〇円であつて、原告らは、右代金額及びこれに対する利息を被担保債権として、右各商品に特別の先取特権を有しており、かつ、これに優先する債権はなかつたこと、原告らは、いずれもその後右各商品を破産会社から持帰つてこれを任意処分したが、右処分代金は、前記売買代金と同額であるとして右代金に充当したこと、なお、本件一、二の各約束手形は、右商品代金支払のために振出されたものであつて、原告らは、本訴で、右各約束手形金から前記商品の処分代金額を控除した額を破産債権として主張していること、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。ところで、破産会社の破産管財人である被告が、その後右各商品を換価した場合において、前記先取特権の被担保債権額を超え、かつ、原告らが処分した額以上の額でこれを処分することができたことについては何らの主張立証もなく、却つて、証人藤居隆太郎、同速水清見の各証言によれば別紙物件目録一、二に記載の商品については、原告らが処分した額以上の額で処分することはできなかつた本件商品を任意処分したことにより、破産会社が特別の損害を被つたことについてはこれを認め得る証拠はない。従つて、原告らが担当者が本件商品を持ち帰つてこれを処分したことにより、破産会社が損害を被つたこともないというべきである。

(四) なお、被告は、昭和五七年三月四日当時、破産会社において、今後その営業を継続すべきか否かを検討していたところ、原告らが本件商品を無断で持帰つたために、破産会社の再起は不能となり、少なくとも本件商品価額相当の損害を被つたと主張しているが、原告らが本件商品を持帰らなければ、破産会社が破産するに至らず、引続き営業が継続できたとの事実を窺わせる証人神谷博の証言はたやすく信用できず、他に右事実を認め得る証拠はない。よつて右の点に関する被告の主張は失当である。〈以下、省略〉

(後藤勇 八木良一 小野木等)

約束手形目録一、二〈省略〉

物件目録一、二〈省略〉

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